記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター
日本銀行(以下日銀)は1月に開いた金融政策決定会合で、マイナス金利の導入を決めました。日本において初めてのことで前例のない政策ですが、ヨーロッパではすでに導入されています。
これまでならば預金や借入をすると金利がつきますが、マイナス金利になると、文字通り、金利がマイナスとなります。そのため、理屈の上では、預金をすればお金を支払い、借金をすればお金がもらえることになります。ただ、実際は、あらゆる金利がマイナスになるわけではなく、一般の預金が金利で目減りすることはありません。また、借金をすればお金がもらえることもないとされています。
では、どの金利がマイナスになるのでしょうか。具体的には、日銀の当座預金の一部について0.1%のマイナス金利を課すことになります。日銀の当座預金は、一般の人は口座を開くことはできませんが、銀行などの金融機関は口座をもってお金を預けています。これまでは日銀の当座預金にお金を預けると、銀行は金利がもらえました。ところが、マイナス金利になることで、逆に、銀行が日銀にお金を支払うことになります。
これにより、銀行などの金融機関は自社が有するお金を日銀に預けるよりも、融資や投資に振り向けたほうが、自社の利益は大きくなります。加えて、一般の企業にしてみれば金利が低下すれば借入がしやすくなり、設備投資が促進されること、さらに住宅購入をはじめ個人消費が刺激されることも期待できます。
なかでも、もっとも大きなことは、設備投資や住宅購入、投資などにより、景気に対してプラス効果が働くことに期待が寄せられます。
マイナス金利により、もっとも恩恵を受けやすいのが、長期金利に連動する借入が挙げられます。長期金利が安くなれば、個人ならば住宅ローンを組みやすくなります。また、条件次第で、企業の長期借入金利も低下する可能性が生じ、設備投資のよい機会となることが期待できます。不動産産業、設備機械メーカーなどは、マイナス金利が業績向上につながる可能性が大きくあります。
メリットをもう一つ挙げるなら「通貨安」があります。短期金利がマイナス金利だと、海外の投資家はその通貨をやや買いにくくなります。円が買われにくくなるので、結果、円安に振れ、それが輸出産業の収益に貢献、その期待により株高になるという予想があります。
ただ、実際は、日銀がマイナス金利を発表した日は、前日に比べ、日経平均は上昇し、円は下落したものの、その効果は限定的でした。その後、日経平均株価は下落し、円高に向かいました。
輸出産業とは反対に、銀行は業績に対してダメージを受けると懸念されています。というのは、銀行は日銀からもらえるはずの金利がなくなるのに、一般の個人や企業への預金利子は支払わなければならず、収益の悪化になりかねません。すでに、一部銀行では収益の悪化を招かないように、預金金利を引き下げる措置を講じています。
また、今後はATMの時間外手数料や振込手数料の引き上げで、一般の銀行にお金を預けた人への負担が増える可能性も全くないとはいえません。
理屈の上でマイナス金利は、輸出産業や不動産をはじめとする多くの企業にとって、メリットが多いはずですが、実際に、予想通りになるかは、注意が必要です。