金融政策のひも理論

 アベノミクスの中心は何といっても金融緩和政策です。金融緩和政策の中核には日銀がいますが、日銀だけでは金融政策は完結しません。金融政策が機能するには銀行が有効に働かなくてはなりません。
 金融緩和政策というと、日銀が紙幣輪転機をフル回転させ、刷り上がった紙幣を民間にばらまけばいいという風に表現されますが、日銀が実際に行うのは日銀に当座預金口座を持つ銀行などの民間金融機関との金融取引に過ぎません。日銀は銀行が所有する国債を買い上げ、銀行の日銀当座預金口座にカネを潤沢に供給しようとします。銀行は日銀当座預金口座にカネを置いておいても金利は稼げませんから、その分の資金が貸出しに向かい、市中にカネが出回り経済が活性化するというのが、日銀が意図しているところです。

 1980年代までは、金融政策は金利政策でした。現在のスズメの涙ほどの預金金利からは信じがたいことですが、当時は預金にも立派な金利が付いていました。金利が付いていたのはマネーに希少価値があったからであり、経済活動を制約しているものといえば、それはもっぱらマネーでした。経済全体が成長し、巷に資金需要があふれていましたから、資金さえ調達できれば、設備投資を行い、生産量を増やし、売上と利益を増加させることができたのです。企業の財務的課題は設備資金や運転資金を確保することにありました。
経済全体が資金不足だった1980年代までは、銀行も日銀から資金を借りなければなりませんでした。そのため、日銀が銀行に貸し出す際の金利である公定歩合の動きが重要でした。公定歩合を下げれば、銀行の貸出しは増え、実体経済は活発化し、逆に上げれば、経済を引き締めることができたのです。日銀と実体経済をつなぐ銀行は、パイプ役として有効に機能していました。
 ところが時代が変わり、経済は成熟してきています。企業の資本蓄積は進み、上場企業を中心に、実質無借金の会社が増加しています。マネーの希少性は薄まり、マネーの価格である金利はゼロに限りなく近づいています。もはや経済活動のネックはマネー不足ではなく、実物の需要不足です。同時に資金提供機関としての銀行の役割も縮小しました。つまり、日銀と実体経済をつなぐ金融政策におけるパイプ役としての銀行の機能が失われてきたのです。銀行に経済を動かすようなかつての力は既にありません。
 金融政策の用語に「ひも理論」というのがあります。ひもは引っ張る時には力を発揮しますが、押してもさっぱり効果はあがりません。異次元の金融緩和政策はこちら側でひもを一生懸命押しているだけのように見えます。大切なのはひもの向こう側にある引っ張る力です。それを作ろうとするのがアベノミクスの第3の矢の成長戦略ですが、その力が弱々しくなっているのが気がかりです。

記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター

2016-05-10 (火) 9:27

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