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遺留分の民法特例、親族外も対象に
経営承継円滑化法の改正法で、遺留分に関する民法特例の対象が親族外に拡大されます。親族以外への承継を考えていた経営者にとっては朗報です。
先代の生前に後継者がほとんどの自社株を受け取ることになっていても、相続時に他の遺留分権利者から遺留分の減殺請求を受ければ、会社の財産が分散して経営が立ち行かなくなることもあります。そうした可能性があるとなると、後継者は安心して経営を続けることができません。そこで民法には、遺留分に関する特例が設けられているのです。
特例は、遺留分権利者全員から合意を得ることで、後継者が贈与された自社株式など一定の財産を遺留分算定の基礎財産から除外できるもの。除外された財産は遺留分減殺請求の対象にならず、自社株をめぐる相続争いの予防につながります。
遺留分の民法特例はこれまで後継者が親族の場合だけに利用できるものでした。そのため、多くの会社が利用をあきらめざるを得なかったという実情があります。今回の改正でこうした会社の事業承継が少なからずスムーズになることが期待されます。
なお、遺留分の民法特例としてはほかに、贈与株式の評価額をあらかじめ固定できる制度があります。前経営者から生前贈与を受けた後、後継者が会社の価値を高めれば、遺留分の算定時は上昇後の株価で計算されてしまいます。それを考えると、汗水たらして自社株の評価を高めるといった意欲が阻害されかねないため、遺留分の評価額を事前に固定できる特例が設けられているわけです。
企業版ふるさと納税導入へ
企業版のふるさと納税制度が導入に向けて動き出しています。内閣府の平成28年度税制改正要望に盛り込まれました。
菅義偉官房長官は、「企業と地域が一体となって雇用の場をつくることにも活用できればいい。企業版のふるさと納税も何としても創設したい」と、企業版ふるさと納税を地方の雇用創出につなげる構想を都内の講演で披露しました。
現行のふるさと納税制度は、個人が任意の自治体に寄付をすることで、所得税や住民税を控除できる仕組み。寄付者への返礼品でふるさと納税を呼び込もうとする自治体は多く、活況を呈しています。企業版もそうした状況に鑑みて創設されるようです。
企業版では自治体の地方創生事業に寄付をすることで法人住民税と法人税を軽減するそうです。東京都などの財政力のある自治体への寄付は認めない方針で、地方間の財源偏在を是正するのを目的としています。
国としては当然、税収減への懸念が残ります。さらに、企業が利益誘導を目的に寄付する自治体を選ぶことも考えられ、ゆがみのない制度設計が求められます。
住民票の住所以外でマイナンバー受取り
来年1月からの制度スタートに向けて、今年10月からいよいよマイナンバーの個人番号の通知が始まります。マイナンバーは国内に住民票を持つすべての人に付番され、番号が記載された通知カードは、簡易書留で10月~11月に住民票の住所宛に送付されるそうです。
さて、東日本大震災の被災者、DV(家庭内暴力)・ストーカー行為・児童虐待の被害者、長期療養のために医療機関などに入院している人たちは、住民票の住所に住んでいなかったり、あるいは住民票にある住所以外のところで通知カードを受け取りたかったりする場合がいます。そこで総務省は、住民票以外の居所を通知カードの送付先とするための手続きをホームページ上で公開しています。
同省では、こうした事情のある人たちを「住民票の住所で通知カードを受け取れないケース」として挙げ、一定の手続きによって実際の居所で通知カードを受け取ることができるようになるとしています。通知カードの受取時期に長期出張が重なる単身者なども例として挙げられています。
手続きには現在居住している居所情報の登録が必要です。「通知カードの送付先に係る居所登録申請書」を市役所等でもらうか、インターネット上からダウンロードします。手に入れた申請書には氏名、生年月日のほか、住民票に登録されている住所と、実際に居住している住所を記入。そして、「住所地において通知カードの送付を受けることができない理由」も記入します。
記入した申請書は、住民票のある市区町村に持参または郵送します。その際、申請書以外に、運転免許証など申請書の本人が確認できる書類、公共料金の領収書など実際に居住していることを証明する書類が必要。代理人による申請の場合は加えて代理権を証明する書類と代理人の本人確認書類も添付しなければなりません。
役員等の勤続期間5年以下 退職金の2分の1課税なし
退職金課税(住民税も含む)の特徴、あるいは節税効果があると喧伝される理由は、勤続年数に応じた退職所得控除額(勤続20年まで年40万円、20年超年70万円)が大きいという点もありますが、何といっても退職所得の金額(課税標準額)が、退職金(退職所得控除後の金額)の「2分の1」である、という点です。
退職所得の金額を具体例で算出すると、次のようになります。
例、退職金の額1,500万円、勤続年数5年
(退職金の額「1,500万円」-退職所得控除額「200万円」)×1/2=退職所得の金額「650万円」
※退職所得控除額200万円=5年×40万円
役員等の勤続期間5年以下の場合
この退職金に対する2分の1課税は、一部外国人役員の給与等の節税に利用され、また、特権を持った一部の人が退職後、外郭団体で役員等に就任しては、短い期間で退職し、その都度、退職金の支給を受ける、いわゆる「渡り」と呼ばれる人が、退職の都度、この適用を受けていました。
現行の2分の1課税方式は、超過累進税率の適用を緩和するためのもので、こういった特殊な事例で適用されることは想定されておらず、本旨に反するとの批判が高まり、平成24年度の税制改正で、役員等に就任し、その勤続年数5年以下の当該役員等の期間に対する退職金については、2分の1課税は適用しない、旨の改正がなされ、平成25年1月1日以後の支給分から適用となっています。
すべての法人等に適用
この2分の1課税適用除外ですが、中小法人であっても適用され、当然に使用人から兼務役員になった役員期間も対象です。
中小法人では、よく、定年前に使用人から兼務役員、場合によっては、さらに本役員(常務等)に昇格、そして、5年以下で退職してもらう、という事例はままあります。この場合ですが、役員等の勤続期間が5年以下ですので、役員としての退職金には2分の1課税の適用はありません。留意が必要かと思われます。
対策としては、5年超勤続させるか、それができない場合には、役員期間の退職金を合理的に算定し、できる限り少なくするか、です。少なくとも、見栄で役員部分の退職金を多くすることは禁物です。
なお、使用人部分の退職金は、勤続期間の有無にかかわらず、2分の1課税は適用されます。
《コラム》ピケティの資産課税とマイナンバーと富裕税
◆ピケティの提唱
ピケティの「21世紀の資本」は世界中で爆発的な売れ行きを示しています。ピケティは、資産格差を拡大させないよう、累進的なグローバル資産課税を提唱しています。個々人が持つ資産を全世界的に把握し、資産総額に応じて課税したうえで、税収を関係国間で配分するというものです。
◆資産課税への日本の制度化準備
わが国でも、資産総額への課税制度創設の準備は進んでいます。今年の税制改正事項として、従来の「財産債務明細書」を改変し、国外国内を問わないもので、且つ「国外財産調書」と同じように運営する「財産債務調書」制度が創設されます。懲役刑を含む罰則をもつ「国外財産調書」制度の施行に引きずられての見直しのようにも見えます。
◆罰則ナシでスタート
「財産債務調書」の新制度には、懲役刑を含むような罰則は設けられないようです。提出を義務付けられる人のプライバシーの開示を強制するに等しい、財産と債務のオープン化は、100%完璧な申告も限りなく不可能であろうし、心理的には相当な抵抗が予想されるところだから、と思われます。
罰則がなくてもまともな申告が期待できるものでしょうか。現行の「財産債務明細書」については、罰則がないため、提出義務があっても提出しない人が沢山おり、提出はするが形ばかりというものでも、これへの問合せは皆無です。
◆まずはスタートで少しのフォロー
従来と違うのは、「財産債務調書」の信憑性を担保するための税務調査の制度を設ける、としているところです。相続財産の事前調査のようになりそうです。調査非協力には罰則があります。でも、調査官が職権により「国外財産調書」や「財産債務調書」の書き換えをする職権更正というのはなさそうです。
◆そしてマイナンバーが来年から
財産申告と施行間近なマイナンバー制度をかけあわせると、当面の狙いは、相続財産の捕捉もれへの対処であるとしても、その先に資産課税としての「富裕税」を見据えている、ことが透けてきます。富裕税は、日本でも、戦後3年間実施されていましたが、フランスには今でもあります。
財産申告が富裕税の税額計算申告になるまでは、財産適正申告の実現は相当な困難事のように思えます。
《コラム》所得拡大促進税制 中小企業の留意点
所得拡大促進税制、正式には、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除です。
◆大企業に配慮した改正
大企業といえども適用要件の1つである①適用年度の給与等支給増加額が基準年度の給与等支給額に対する増加率5%はそのハードルが高く、また、雇用者の新規採用に比して今後もかなりの退職者が見込まれることから、もう1つの適用要件である②平均給与等支給額が前期の平均給与等支給額以上とはならず、結果、この特例が適用できないこととなる事態も想定されることから、平成26年度税制改正で次のような改正が行われました。
1つは、増加率は平成26年度2%、27年度は3%、平成28・29年度5%、そして、もう1つは、継続雇用者をベースにした平均給与等支給額の算定と平均給与等支給額が前期のそれを超えるとする改正です。この2つの改正により、大企業でもこの特例を容易に適用できる環境が整いました。
ちなみに、この継続雇用者とは、雇用保険の加入対象者で給与等の支給を受けた国内雇用者であり、前期と適用年度のいずれの事業年度においても給与等の支給を受けた者です。加えて、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づくところの継続雇用制度の対象者は除く、とされています。
◆中小企業への配慮があってしかるべし
いったい何が問題なのか、ですが、対象となる雇用者給与等支給額から、使用人兼務役員の給与等支給額は除かれている、ということです。そして、その上で、適用年度の給与等支給増加額が基準年度の給与等支給額の2%増の要件を満たさなければこの特例が使えない、ということなのです。
仮に、基準年度において、使用人であったものが、その後の適用年度において役員、例えば、取締役経理部長、取締役営業部長といった役員に昇格した場合、当該使用人兼務役員になった者の給与等は基準年度では雇用者給与等支給額に含まれ、一方、適用年度において除かれることになり、適用年度の給与等支給額が基準年度のそれを上回ることにはならず、結果、この特例の適用を受けられない可能性は大となります。
平成26年度の税制改正においては、中小企業のこの点にも配慮した、使用人兼務役員の給与等支給額の取扱いについての改正が望まれたところでした。
《コラム》税務調査の概念の修正
◆「調査」により更正する
税法では、更正処分、再更正処分、再々更正処分は「調査により」行うこととされています。
従って、税務調査が終了し、更正処分や修正申告がなされた後、税務署長がそれをさらに変更するような再更正を行うには、再調査が必要です。
しかし、再調査は「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」にのみ行うこととされています。
一度調査が行われたら、余程の新情報がない限り、再調査はありません。
◆「調査」による減額や繰戻還付
既に行った申告について、納付すべき税額が多すぎた場合、申告書に記載した翌期へ繰り越す欠損金が少なすぎた場合、申告書に記載した還付税額が少なすぎた場合などでは、納税者から税務署長に対し減額更正の請求ができます。
また、所得が赤字だった時の、その前の期間への赤字の繰り戻し請求という制度もあります。
これらの請求により、税務署長が減額修正、還付処理をする場合には、「調査」し、その「調査」したところにより、処分や還付を行うことになっています。
これらの税負担を軽減する処置もそれぞれ「調査」を経て行われることになっていますが、「調査」といっても、机上調査とか電話確認調査とかの程度の「調査」で済ませている事例が多そうです。
◆「調査」概念の統一性?
「調査」という言葉は税法の中に何回も出てきますが、それらが、同一の意味なのだとすると、減額更正や繰戻還付の請求があって、机上調査で処理が済んだ場合、その年分に関しては一度調査がなされたということなので、もはや「新たな情報」がない以上、通常の税務調査は行えないのか、という疑問が湧きます。
税務当局も、こういうことについて、このままでは、まずいと判断したようで、今年の税制改正で、異なる2種類の調査概念を設けることにしました。
◆「調査(実地の調査に限る)」
机上調査とか電話確認調査とかをもって「調査」としてよい場合と、実地に出向いて行われる臨場調査のみを「調査」という場合とに、法律上の「調査」という言葉を使い分けることになりました。